硝酸を使わない太陽光パネルの銀回収 仏CEAの98%超技術が廃棄物処理の採算を変える
ニュースの概要
フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)の研究者が、使い終わったシリコン系太陽光パネルから銀を98%超の割合で取り出す処理技術を開発した。多くの回収工程では強い酸である硝酸が使われてきたが、今回の方法は塩酸と過酸化水素を使い、狙った金属だけを溶かし出す。さらに、粒子の重さの違いを利用した分離を組み合わせ、銀を含む金属粉末から銅などの安価な金属を短時間で取り除く。最終的に得られるのは銀と塩化銀が混ざった物質で、純度は97.2%とされる。研究チームは20リットル規模のパイロット反応器を使い、実験室を超えた規模での検証に進んでいる。
引用元: フランス研究チーム、硝酸を使わず太陽光パネル廃棄物から銀を98%超回収(pv magazine)
分析・見解
少量でも価値が高い銀が、リサイクル採算を左右する
太陽光パネルに含まれる銀は、重さで見ればごくわずかです。それでも電極に使われる銀は、セル部材の中で大きな費用項目の一つです。パネル1枚の量は少なくても、数百万枚単位で寿命を迎えれば、回収できる銀の総量は無視できません。ガラスやアルミ枠は比較的かんたんに再利用できます。難しいのは、樹脂で封じられたセルの中から、価値の高い銀を安く取り出すことです。ここが事業の採算を決めます。
硝酸をやめると、工場の安全と手間が変わる
硝酸は銀をよく溶かす強い酸で、回収工程では定番でした。ただし有害な窒素酸化物のガスが出やすく、排液の処理にも手間がかかります。腐食に強い高価な設備が要り、保管や輸送の規制も重くなります。今回の方法は塩酸と過酸化水素で、まず銅などの安価な金属を選んで溶かします。銀は塩化物になると水に溶けにくいため、固体のまま残しやすい。この性質を生かした設計だと考えられます。
ただし「硝酸を使わない」ことは「危険がない」ことではありません。塩酸も腐食性が強く、過酸化水素は反応が急になると発熱します。減るのは窒素酸化物のリスクであり、安全管理そのものは変わらず必要です。
回収率98%超と純度97.2%は別の物差し
回収率は「含まれていた銀の何割を取れたか」を示します。純度は「取り出した物の中で銀成分がどれだけか」を示します。今回得られるのは銀と塩化銀の混合物で、そのまま地金にはなりません。精錬所へ売るか、追加の工程で金属銀に戻す必要があります。回収率が高くても純度が低ければ、買い取り価格は割り引かれます。つまり出口をどこに置くかで、手元に残る利益が変わります。
20リットル規模から工場規模へ進めるかが次の焦点
20リットルの反応器は、工場というより大型の試験装置です。実際の廃パネルは、メーカーや製造年によって電極の材料も封止材も違います。ばらつきのある原料を大量に流しても、同じ回収率が出るかは別の検証が要ります。欧州ではWEEE指令(=電気電子機器の回収と再資源化を定めたEUの規則)が太陽光パネルも対象にしており、回収量が増えるほど低環境負荷の手法には追い風です。一方で、銀価格が下がれば採算は厳しくなります。
もう一つ見落とせない点があります。メーカーは銀の使用量を減らし、銅への置き換えも進めています。今後作られるパネルほど、1枚あたりの銀は減る方向です。今回のような技術は、これから大量に出る古い世代のパネルで最も力を発揮します。将来は銅やシリコンなども合わせて回収する設計へ広げる必要があるでしょう。
ビジネスへの影響
リサイクル事業者は薬品費と排水処理を試算し直す
硝酸を使う工程を持つ事業者は、窒素酸化物の排ガス処理や、耐食設備の更新費を抱えています。塩酸と過酸化水素の方式に切り替えられれば、設備投資と許認可の負担が変わる可能性があります。ただし薬品の使用量、排液の量、塩化物を含む廃水の処理費は別に発生します。塩酸は広く流通する汎用薬品ですが、価格は変動します。まず自社ラインで、1トンあたりの総費用を新旧で比べる表を作ることを勧めます。
発電事業者やパネル製造者は回収契約の条件を詰める
廃パネルを出す側にとっては、銀の価値が買い取り価格に反映されるかが論点です。処分費を払う契約のままでは、回収技術が進んでも恩恵は受けられません。契約には、セルの含有量の分析方法、銀価格に連動する精算の仕組み、回収率の報告を盛り込みたいところです。パネルの寿命が来る時期は事業者ごとに異なるため、数年先の排出量を見積もり、まとまった量を確保して交渉すると有利です。製造者は電極材料の情報を開示すると、処理側の工程設計が早く進みます。
投資判断では三つの数字を確認する
出資や提携を考える場合、見るべき数字は三つです。第一に、20リットルの試験結果が実際の混合廃パネルでも再現できるか。第二に、銀と塩化銀の混合物を誰がいくらで引き取るか。第三に、銀価格が大きく下がった場合でも黒字を保てる処理量です。これらが示されるまでは、全面導入ではなく、少量の委託試験から始めるのが現実的です。安全面では、保護具や換気、緊急時の洗浄設備など、酸を扱う現場の基本対策を新方式でも省かないことが前提です。